カウントマン

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引っ越さなきゃ、
いけなくなった。

なんだよ、またかよ。
またバレたのかよ。

おまえが、
カウントマンだってことが。

……うん。

で、今度は誰から?

誰に言って、
どう広まったわけ?

付き合ってた子……。

友達に
つい言っちゃったみたいで、
そこからみんなに……

今度は恋人か。

前は
親友だと思っていたやつ。
その前は、
尊敬していた先輩。

毎回毎回裏切られてさ、
おまえ、
人間不信になんない?

なってる。

なってるけど、
でも、どこかで、
仕方ないのかな、
って思っちゃう時もあるよ。

だってコレ聞いたらさ、
絶対に話したくなるし、
それに……

試したくなる、ってか?

……うん。

でも、彼女になら、
って思ったんだ。

彼女なら……

彼女なら?

使わないかもしれない、
って。

知ってても使わないでいてくれる、と。
そう思えた人にだけ、
話してたんだな。

そう。

でも、
知っていて、
使わなかったのも、
知っていて、
他人に話さなかったのも、
おまえだけだったよ、伴外。

おまえ、
一度、死にかけてるもんな。
『船から海に飛び込め』って言われて。

……なんで信じてる?

なんで、とは?

伴外は、ないだろ。
僕にカウントしたこと。
海に飛び込んだことだって、僕のホラかもしれないぞ。

何回も引っ越してるだろ。

それにしたって、もっと別の理由があるかもしれないだろ?
普通は、
こんなこと信じない。
話した人たちだって、
僕に実際カウントしてみて、
初めて信じたんだよ。

ありえる、と思ったからさ。

ありえる?

そう。
おまえは、物心着く前から、
徹底的にそいつを刷り込まれてきた。

カウントに逆らえば、折檻。
それも身体に傷跡が残るような、 見るに耐えないものばかり……

そしてその傷は、
身体だけじゃない。

おまえの心にも、
しっかりと刻み込まれたんだ。

オレは、そう思った。
だから、信じた。

……

身体の傷の事とか、
昔の事とか……
そのあたりから、カウントのこと、人に話してたんだろ。

大事な人だけ、に。

うん、そうだよ。


ねぇ、伴外。

なんだ?

僕にカウントしてみてくれないか。

……馬鹿言うな。

おまえが親にされてきたそのカウントは、 はっきり言って、虐待そのものだぞ。

なんで、それを今オレがしなきゃいけない。

伴外に見せたいんだよ。
僕の、そのままの姿を。

違うね。
おまえの、そのままの姿は、カウントマンじゃない。
それを、大切だと思えた人に打ち明けようとする、
その姿こそが、
おまえの本当の姿だ。

やってくれ。

頼む、一度だけ。

僕は、
伴外のことを信頼している。
だから、見せたいんだ。



……頼む。




……何にする?


何って?

命令だ。

なんでもいい。
伴外は賢いから、
すぐに思いつくだろ。

任せるよ。



オレのクチビルに、
キスをしろ。


なっ……!?






……


ちょっと待ってくれ、伴外、
それは……

……10。

ぁっ……!





9……8……7……6……


……ぁぁっ、ぁぁぁぁ……





5……4……3……2……

ぅぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!





























……




……


















……見たか。



僕は異常だ。

……





……でも、
やっぱり賢いな、伴外は。

身体を傷つけることなく、
他人に迷惑かけることなく、
それでいて、
絶対にやらないような命令をすぐ思いつくんだもの。

オレは賢くない。
おまえに信頼してもらえるようなヤツでもない。
ただ、意味がないと思うことをしないだけの、
心の冷めた男さ。

……彼女は、
僕に打ち明けられても、
どんな命令をしたらいいのか、解らないでいた。

だから、
僕から言ってみたんだ。
僕の身体を少しだけ傷つける命令だったけどね。

それで、彼女は僕の言うまま、命令をして、カウントを読み始めたよ。
そうして、その命令を実行した僕を見て、 なんというか、理解できないような、 まるで宇宙人を見るかのような、 そんな目をしていた。

信じられないから、
もう一度してみていい? と 彼女は訊いてきた。
僕は、さっきのより、 もっと酷い命令を提案してみたよ。

その命令をして、カウントを読み上げている時の彼女の好奇心にギラついた瞳は、今でもまだ瞼に焼き付いている。

……


それから少しして、
ちょっとケンカをした。

ほんの、
些細なことだったんだ。

居間に置いてある
スナックを、
どちらが取りに行くか、
って。

その時……

カウントされたんだな。

ああ。

言われたよ。
なんの前触れもなかったから、思わず耳を疑った。

『スナック取りに行ってきて。10,9,8,7……』
ってね。

……

彼女からしてみれば、
別になんてことはない、軽い命令だったんだろう。

でも、カウントをされたら絶対に従ってしまう僕からしてみれば、それは、軽くもなんともない。

心がバラバラになった気がしたよ。 それで、彼女が信じられなくなった。

後は、最初に話した通りさ。みんなに言い広められた。

でも、それも仕方がない。
誰がこんなオモシロ人間、好きこのんで放っておくものか。




僕は、異常だ。
異常者だ。

おまえは、
異常なんかじゃない。

幼い頃から、
親にしつけのため、いや、
無理矢理言うことを聞かせるために、命令の後にカウントを読み上げられ、0になってもそれをやらずにいると、酷い虐待を受けた。

何年も何年もそれは続き、
おまえの精神の中で、カウントされること、それそのものが、 絶対的な恐怖の対象になってしまった。

それは、人の心が取った、
正常な変化だ。

おまえが異常なら、
おまえの親や
おまえが信頼した奴らも、
また等しく、異常なんだよ。



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