さみしさのまもの










寂しさが自尊心に勝れば、
寂しさの魔物になる。

自尊心が寂しさに勝れば、
寂しさの魔物になることはない。








あんなこと、
自分がするなんて、
信じられなかった。

あんなこと、
漫画の中だけの話だって、
思ってた。

常識なんて、
そんなもんさ。

私は、
そういう意味では、
どこにでもいる普通の女だったし、なんで自分がこうなってしまったのか、
もう、
解らなくて……

……

私は私じゃなくなるくらい、
彼の前では、私の知ってる
私じゃなかった。

ありえない、理解できない、
ずっとそんな風に思ってたけど、自分で自分がそうなって初めて思った、
私ってなんだったの……

それはものすごく、
単純なことだ。
人は、限りなく弱い。

そしてその弱った状態でなら、色んなものを受け入れやすくなる。あんたに限ったことじゃない。

もういちど、
考え直してみろ。

あんたが欲しかったものは、
その男の変質的な性癖か?

違う、
私は温もりが欲しかった。

私に触れてくれるなら、
もう、なんでもよかった。

彼に縄で縛られているとき、
本当は両腕で抱きしめて欲しかった。
彼に鞭で打たれているとき、
本当は優しく髪を撫でて欲しかった。
彼に首を絞められているとき、本当は深い口づけをして欲しかった。


でも、そんな行為の中でも、
彼は私に触れてくれるから……


……


初めて会ったとき、彼に、
「オレの奴隷になれ」って言われた。

何それ信じられない、そんな漫画みたいなセリフ、本当に人に向かって言うなんて……どういう神経してるの?
そう思って、背筋が凍った。でも、



私はそれ以上に壊れていた。
そんなこと以上に、
私は愛に餓えて壊れていた。
だから、
私は彼を受け入れた。

自分で自分が何をやっているのか全然解らなかったけど、自分がさみしいことだけは、どこまでいっても解った。
解らずには、
いられなかった。
だって、







私には、なにも……

本当に好きな相手は、
あんたに指一本、触れてはくれない。
声一つかけてはくれない。
存在の認知すら、
まともにしてもらえない。

あんたの中のさみしさの魔物は育つだけ育って、ただあんたに触れてくれるだけの男の前で、弾けたんだ。

彼のことを愛している。

何度も、
そう言わされた。
彼も、
私のことを愛している。
もう、それでいいとさえ思えてきた。





本当は、
あの人に抱きしめられたい。
本当は、
あの人の腕の中がいい。

でも、それが叶わなくて、
この先ずっと、誰にも抱きしめられないのだとしたら、誰でもいいから誰かに抱きしめられている方が、マシ。

私の心は、
そこまで壊れていた。

そんなものがマシなわけないけど、そんなことすらどうでもいいくらいに、壊れていた。




きっと、今の私は……
さみしさ、そのもの……。





……




私がどれだけ愛が欲しかったか、それが手に入らなくて、信じられないくらい冷めてしまった心に、どれだけ温もりが欲しかったか、



そんなこと、

そんなこと……

















今日、一緒に死のう、
って言われた。
私を殺して、
その後自分も死ぬ、
って……。

それで?

私、生きてるんだよ。
逃げてきたに決まってるじゃない。

……

怖かった。
ものすごく、怖かった。


でも、どうして……?

私も、どうしようもないくらいさみしさで壊れているのに、それでも殺されるのが、すごく怖かった。
彼のことを、本気で畏怖している自分がいた。
だから、

必死になって逃げてきた。

どうして……?

私も彼も、
さみしさの魔物なのに……。

それは、あんたよりも、
そいつの中にいる魔物のほうが、大きかっただけのことさ。

あんたは、
相手の重みに引いたんだよ。

……。

でも、
これで解ったんじゃないの。
自分なんてどうなってもいい、って投げやりに行動した先に、温もりなんて存在してないってことが。

そんなの、
最初から解ってた。

でも、そう思って行動しなくっても、どのみちどうにもならない状態だから、
投げやりになるんだ。

……あんたは、
さみしさの魔物だ。

自分が自分であることよりも、自分がさみしい事を優先させ、さみしさに呑まれてしまった人間だ。

それが、自分という存在の中で、いちばんになってしまった人間だ。

さみしさの魔物は、
そんな風にして生まれてくる。





……ねぇ、伴外。
私、愛されたい。

無理だな。
望んだ愛が手に入らない人生というのは、所詮どこまでいっても、そういうものだ。

そいつがそいつである限り、
そういう人生を歩まざるを得ない。

そいつが
そいつである限り……?

それって、つまり、
自分が変わらない限りは、
ってこと?

そう。

だが、勘違いしないでくれ。
オレはあんたに、自分を変えろ、と言いたいわけじゃない。

自分を変えてまで、誰かの愛を手に入れるということは、
ひとつの選択肢ではあるが、
ひとつの選択肢でしかない。

成長と言えば聞こえはいいが、成長とは言ってしまえば、変化のことだ。

そこに、努力をする価値を自分自身で見出せないのなら、そんな努力など、する価値はない。

……価値の見出せない、
努力?

少なくともあんたに限って言えば、オレにはそう感じられるけどね。

私に限って言えば……?


ひとつ、質問をしようか。

その本当に好きな人を想っていた自分は、
果たして、


『変わらなければ
ならない自分』、


だったか?

……


どうだ?


……違う。

なら、答えは出ている。
後はただ、
不幸を受け入れるだけ。

そうやって、
残りの人生を終えるんだ。

なにそれ……
そんなの、やだよ……

それでもなんとかする方法がないことはないが、
それでもなんとかする方法を選ぶということは、
あんたの言う愛されていることには、ならない。

なぜなら、あんたは、
愛されたい、とは言っても、
幸せになりたい、とは一言も言わない。

幸せになるためには、
愛されようとしない。

あんたは、そういう因業を
背負っているように見える。

因業……

男性と結婚して、
幸せになる。

あんたの愛は、
そこにはない。

好きな人に
愛されて愛し合う。

あんたの愛は、
ここにしかない。

そして、
そういう形でしか、
あんたは幸せにはなれない。

そんな夜藤堂さんに、
オレがかけてあげられる言葉は後にも先にも、
ひとつだけだ。






























孤独に死ね。






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