幸せの飴

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ここに、
ひとつの飴がある。





ひと舐めすればあまりの美味しさに、
たちまち幸せになれるという。

それ故、この飴は人々から、
こう呼ばれていた。











『幸せの飴』と。
















久しぶり、幽鬼
掛画絵も。

伴外はさ、
そんなに水と油が好きなの?
そんなに犬と猿が好きなの?

オレとコイツを
同時に呼びつける、
ってそれおまえ
覚悟してるんだろうな。



おまえら2人じゃなきゃ、
ダメなんだよ。
この、『幸せの飴』の
正体を解き明かす為にはね。

冗談はよせ。
こんな幸せボケした無感動野郎と、何を解き明かすって言うんだ。
何も解き明かせやしない。
返ってややこしくなるだけだよ。

オレも同感だね。
こんな不幸気取りの甘ったれ野郎と共同作業だなんて、
嫌気を通り越して寒イボできるね。
気持ち悪いわ。

安心しろ。
ちゃんと
共同作業じゃないから。

2人とも、『幸せの飴』のことは知ってるよな?
食べれば、とても幸せになることができる、
と云われている飴さ。

今日は奮発して2人分、
幸せの飴を用意した。
それを、
これから食べてもらたい。
その後で、個別に
感想を聞かせてくれ。
オレは、自分の推論を
検証してみたい。





★★★★★




どう? 幽鬼。

……これが、幸せの飴、か

ああ。
って、ずいぶん普通な反応だな。
今まで試しに10人に食わせてみたが、
みんなひと舐めした瞬間に、飛び上がって喜んでたぞ。

信じられないな。
だってこの飴、
味がしないよ。

ふむ。やはり、そうきたか。
おまえなら、
そう答えると思っていた。
しかし、敢えて聞こう。
どうして、
味がしなかったと思う?

一度も食べたことがないから、だろうな。

なるほど。
だが、オレが先に食わせた連中の中にも、
一度も食べたことのない奴等はいたよ。

さぁ、そいつらのことまでは解らないが、
恐らくそいつらは、
オレよりも飢えていた期間が短いんじゃないのか?

飢えていた期間?

伴外の言うとおり、これは幸せの飴なんだと思うよ。
オレはたぶん、これがずっと欲しくて、ずっと飢えていたんだ。

……たぶん?

正確には、
もう覚えていないんだよ。
オレがずっと求めていたものは、これだと思うんだけど、
ひょっとしたら、これじゃないのかもしれない。

飢えていた期間が長ければ、
何に飢えていたのかすら、忘れてしまう、と?

幸せへの渇望は、苦しいよ、伴外。
これが手に入れば、幸せになれる! っていうものが自分の中に在るにも関わらず、それが手に入らない状態というのは、際限なく苦しみを、そして痛みを産み出し続けるんだ。
そのうち、その幸せ自体が、苦しみを産み出す産物でしかなくなってくるのさ。
と、なれば、そんな苦痛しか産み出さないものは排除してしまえ、となるのが必然だ。

オレの心はそう動いたよ。

手に入れてもいない幸せを、か。

ああ。
手に入れてもいない幸せを、だ。





★★★★★




どう? 掛画絵。

……これが、幸せの飴、か。

ああ。
って、ずいぶん普通な反応だな。
今まで試しに10人に食わせてみたが、
みんなひと舐めした瞬間に、飛び上がって喜んでたぞ。

信じられないな。
だってこの飴、
味がしないよ。

ふむ。やはり、そうきたか。
おまえなら、
そう答えると思っていた。
しかし、
敢えて聞こう。
どうして、
味がしなかったと思う?

何度も食べてきたから、
だろうな。

なるほど。
だが、オレが先に食わせた連中の中にも、
この飴を食べたことのある奴等はいたよ。

さぁ、そいつらのことまでは解らないが、
恐らくそいつらは、
オレよりもこれを食べてきた回数が少ないんじゃないのか?

食べてきた回数?

伴外の言うとおり、これは幸せの飴なんだと思うよ。
オレもずいぶんコレを求めて必死になった時期があった。

だけど、
それが手に入るだろ?
そうして、食べるだろ?
最初は美味いよ。
悦びに打ち震えたよ。

でもね。

……でも?

1度目は美味しかった。
2度目も美味しかったさ。
3度目も、4度目も、5度目も、6度目も、ね。

でもふとオレは気付いた。
食べれば食べるほど、その回数を重ねれば重ねるほど、
味が落ちていくことに。

食べる回数が増えていくほど、味は薄くなっていくと?

最初は夢中だったさ。
それこそ、
毎日のように食べていた。
朝も昼も晩も、食べていた。
幸せになりたくて、幸せに染まりたくて、幸せを貪り続けた。

だが、ある時になって、
ふと気付いた。

オレはこれを口にしても、幸せを感じなくなっている、
とね。

それって、
解りやすく言うと、
飽きた?

他人から見れば贅沢な悩みなんだろうけど。

……特にほら、
静寂幽鬼の奴とかさ。
だから、アイツはオレのことが嫌いなんだよね。
オレも、
アイツが嫌いだけど。

でも、実際味を感じないっていうのは本当。

この飴もそうなんだけど、
俗に言う、幸せ、って云われているものの何を味わっても、なぜか、味がしないんだ。

最近けっこう、
真剣に悩んでたりする。




★★★★★



2人ともありがとう。
オレの推論は、
どうやら当たっていた。

これは、『幸せの飴』なんかじゃない。




これは、
『欲望の飴』だ。

え?

欲望の飴?

そうだ。欲望とは、
幽鬼のような0%の状態と、
掛画絵のような100%の状態では、全くその意味を成し得ない。

空っぽの欲望。
満たされた欲望。
これは、どちらも、
欲望ではない。

欲望とは、
それを追い求める過程にこそ、存在するからだ。

欲望は、満たし切れば
燃え尽きて消えるし、
満たされないままでも、
いずれ燻って消える。

欲望は幸せの種だ。
幸せは、
欲望なくして成り立たない。
だが、欲望を満たすことが
そのまま幸せに繋がるのかといえば、そうではない。





幸せになるには、
センスがいる。





そのセンスのある者が、
『欲望の飴』を
食べることで、それは、
『幸せの飴』に
生まれ変わるんだ。

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