ドッペルゲンガー

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ドッペルゲンガーを見た者は、
数日のうちに必ず死ぬ。




ドッペルゲンガーに殺されるのだ。





目の前に現れたドッペルゲンガーは、
青白い表情の中に、
こちらを射殺すような
冷たい瞳をぎょろつかせ、
おぞましい笑みを口元に湛えている。




その姿はまるで、
異形の存在が、
自分の面の皮を被って
そこに立っているかのようだ……














おい、どうしよう、
オレ見ちゃったんだよ、

ドッペルゲンガー

病院行った方がいいぞ。
検査してもらえ。
脳腫瘍の疑いがある。

ちげぇ!
どこも悪くねぇよ!

一緒にいた
ダチも見たんだぜ?
オレの幻覚だったら、
見えないはずだろ!?

あれは、
絶対もうひとりのオレだ……

どうしよう、
オレ、死んじまう。
アイツに、
殺されちゃうよ……

じゃあなんだ、
そいつはおまえの肉体から抜け出た、幽体だとでもいうのか?

いや、そうでもねぇよ。
あんなにはっきり見えたんだ。
ありゃ確かに、
生きている人間だった。

はーん。そうですかぁ。

……おまえがこういう話、
まるで興味ないのは知ってるよ。

でも聞いてくれよ、
オレ、思うんだよ、
アイツはさ、
別の次元のオレなんじゃねーか、って。

別の次元?

いわゆる、
パラレルワールド、
ってやつさ。

ここと同じような世界だけど、別の空間に存在している世界のことだ。

で、
その別の次元のおまえが、
何かの拍子に、
こっちの次元に来ちゃった、と?

何のために?

オレを殺しに来たんだよ! 決まってるだろ!

だって、
ドッペルゲンガーなんだぞ!?

で、おまえはどうするの、
逃げるの?

逃げたって
必ず見つかるさ。
なんせ奴は、
ドッペルゲンガーだからな。

だから、逆にこっちから奴を監視して尾行するつもりでいる。

先手必勝だ!

……















数日後







なんなんだ、
なんなんだよ、あいつ!

どしたの。

あのドッペルゲンガーさ、
なんか全然普通なんだよ。

普通、とは?

普通に仕事して、
普通に友達付き合いして、
普通に……暮らしてる。

なんだそれ。

もしかしてさ、
あいつとオレの部分だけ、
2つの次元が、重なっちまったんじゃねーのか?
だから、あいつも当たり前のように生活してるし、
もちろんオレも、当たり前のように……生活している。

つまり、この世界には、
おまえが2人存在しちゃってるわけだ?

そうそう、
そうなんだよ!

じゃあ、どちらかがいなくなったとしても、片方が、もう片方の生活を乗っ取っちゃったら、周りは何も気付かないわけだ?

と、なると、
おまえはそいつを殺してしまえるし、そいつはおまえを殺してしまえるわけか。

そうそう……
……えっ!?

そうなるだろ。
例えば、そいつがおまえを殺して、仕事やめて、友人関係全部切って、おまえの家に引っ越して、次の日からおまえの職場に出勤して、おまえの友達と付き合い始める。

……それは、
無理だと思う。

どうしてだよ?

あいつは、
オレだけど、
オレじゃないんだ!

まるで違う、
何もかもが違う!

……はァ?
ドッペルゲンガーなんだろ?

あいつは……

あいつは、オレと違って自分の好きな仕事をしている。
あいつがしている仕事は、オレがやりたかった仕事なんだよ!

そんでもって、
オレと違って、友達みんなから信頼され、尊敬もされている。ああいう人間関係って、オレの理想そのものなんだよ!

つまり、あのドッペルゲンガーの野郎は……



おまえがなりたかった、
おまえか?


……そうだ。

くそ、なんでだよ。

ドッペルゲンガーって、
もっと暗くて人間味がなくて、精神病全開って感じで、すごく恐ろしいイメージがあるのに、なんであのドッペルゲンガーは、あんなにも……

見に行こうぜ?

……え?


おまえの
ドッペルゲンガーだよ。
興味が出てきた。


オレにも見せてくれ。




















うおぉぉぉッ!?
マジだ! 
マジでいやがった!

幽鬼だ! 
幽鬼がいやがる!

……

よっしゃ、
話しかけにいこうぜ!


あのドッペルゲンガー
どんな奴か、
ここからコソコソ見てるだけじゃわかんねーだろ?


ちょうどおあつらえ向きに
喫茶店にいてくれてるじゃねーか。








お? 





どうやら連れ
いるようだな。







向かいに、座ってる……






誰だ、あれ……?







んー、まぁ、いっか。
この際かまわずに……







……





……ん?





……





……どしたの、おまえ。


話す必要なんてない。
あいつとは、
会うべきじゃない。




オレの言ったとおりだ。

あいつは、
オレがなりたかったオレだ。






そう、
あいつ……





あいつは――――

……!? 

おい、待て、

やめろ!

? 
いきなり、何だ? 

オレは、
帰ろうとしただけだぜ。

……いや、おまえがあまりにもすごい形相だからよ。
てっきり、今からあいつのこと……










殺しにいくとでも、
思ったか?




……




なぁ、解るか? 
差名山伴外。

どうして目の前に現れた
ドッペルゲンガーは、
身の毛がよだつほど、恐ろしい表情をしているのか?

どうしてドッペルゲンガーは、そもそも、もうひとりの自分を殺しにやってくるのか?

……

もうひとりの自分が、
とても幸せそうに見えるからだ。

完璧で、満たされているように見えるからだ。

そして、その鏡映しであるはずの自分が、どうしようもなく不幸だからだ。

壊れていて、
渇いていて、
空っぽだからだ。

2人は同じ人間なはずなのに、オレがもっていないものを、そいつは全部もっている。 オレが手に入れられなかったものを、そいつは全部手に入れている。

そうして、今、
目の前で笑っている。

そんな奴がいたら、
おまえ、
素直に祝福できるか?





オレには無理だね。






その姿が、
憎らしくてしょうがない。
その姿が、
妬ましくてしょうがない。
   



オレは今、解ったよ。




























ドッペルゲンガーは、
このオレだ。




































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