とっておきの話

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おまえ、さっき
他人の畑の野菜、
取って食べてたろ?

あんな場所に
堂々と置いてあるのが悪い。
食べられて当然だ。

何言ってんだ?
そんなの言い訳になるかよ。

まて。
まぁ、まて。

おまえはオレのことを何も知らない。
オレが本当はどんな人間か、
教えてやろう。

着いて来いよ。






いやぁ、最高だろ?
うちのリンゴ畑の、
リンゴたちは。

ずいぶん立派なリンゴだな。
おまえが育てたのか?

やめてくれよ、
育てた、だなんて。
オレはこのリンゴたちを愛しているんだ。

そりゃすごいね。
リンゴを愛するおまえの姿は素晴らしい。
多くの人がきっとそう思うよ。

だろう。
現に多くの人がオレを賞賛している。

だが、おまえがリンゴを愛している素晴らしい人物だということと、 他人の野菜を取って食べる最低な人物だということは、
全く無関係だよな?

なんだそれ、
馬鹿にしてんのかよ。

オレは道楽や欲望でリンゴを愛しているのではない。
命を賭け、人生を賭け、誠心誠意、愛しているんだ。

繰り返すぞ?

おまえのリンゴへの愛が本物だったとしても、おまえが他人の野菜を盗んで食う人間だということに関しては、
何も変わらないし、
何も救われないんだぜ。

人は誰しも、良い面と、
そして、悪い面がある。
オレも人間だ。
完璧を求めること自体が、
おかしいことじゃないのか?

違うね。
悪い面というのは、他に良い面があろうがなかろうが、
そんなことは関係なしに非難されて然るべきものだ。

例えば、おまえが愛しているそのリンゴが無惨にも、
誰かに食い荒らされたとしよう。

だが、その誰かというのは、
誰もが認める素晴らしく良い面を持った人物でもあった。

おまえは、
そのことを理由に、
その誰かを許せるかい?


















よォ、伴外。
さっそくだけど、
とっておきの話があるんだ。

とっておきの話?

ものすごく沢山の人と楽しい時間を共有できる、
とっておきの話さ。

笑わせるな。
そんな都合の良いものがあるはずない。

あるんだよ。
それが、あるんだよ。

やってみるかい? 

時間を忘れるほど楽しいし、あっという間にお互い仲良くなれる。
相手との微妙な関係を解消するのにも、相手と意気投合するのにも、自分に何だか分からない自信をつけるのにも、使える。
とても効果的で
実用的なのさ。

世の中、
結構みんなやってるよ?

そこまで言われると
なんだか興味が出てきたな。

よし、やってみようぜ?



あのさ、
このあいだ掛画絵の奴が
人のもの盗んだの知ってる?

知ってる知ってる、
あれだろ、他人の野菜。

えっ? 
野菜も盗んだの?

ちょっと待て、
『も』ってことは、
他にも何か盗んだのか?

オレは
果物って聞いたけど?

マジで?

てか、果物!?

あいつリンゴを愛してるとか抜かしておきながら、果物まで盗んでるのかよ!

リンゴも果物なのにな!

つーかさ、
アイツってなんか
人間的に薄っぺらいじゃん?

典型的な自己愛の塊だよね。

そうそう! 
話してていつも思うんだけど、あいつ、なんか視野狭いんだよな。

しかも、
この前あいつ、
こう言ったんだぜ?

オレにはリンゴを立派に育てている良い面もあるだろー、って。

何言ってんの、
って感じだよな!

リンゴを愛することと、
盗みを働くことは、
全くの別問題じゃねぇか!

だろ!? 
おまえもそう思うだろ!!








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