嫌なことや辛いことから逃げ続けた男の末路【流され続けた男】





























巨大な容積を以て
流れ続けるがあった。









































おまえも、
この川に入ってきたのか。

なんなんだ、この川は。
とんでもなくデカイじゃないか。

これじゃ、一度流れに乗ったら、もう出られないな。

足が着かないし、流れも速い。だから立ち止まれない。
岸に上がろうとしても、水面から河岸までの高低差はゆうに30メートルはある。
これといったとっかかりもない。確実に上がない。

この流れに乗って行くしかないんだな。

そう。オレもおまえも、
もう流れに乗ってしまっている。
止まることも、逃げることも、できないんだよ。


……ん?

あれはなんだ?
ずっと先で、川が二つに分岐しているぞ。

よく見てみろ。

北への水路は
小さく狭いだろう。

南への水路は
大きく広い。

ああ、
どっちに行くんだ?

といっても、北が傍流で、南が本流といったところか。
このまま流れに身を任せていれば、自然と南に流れていくだろうな。

そう。このまま何もせず、ただ流れに身を任せていれば、南の本流へ入っていき、北の傍流へはいけない。

さぁ、泳ぐぞ。

あの分岐点がくるまでに、必死に泳いで、出来る限り北へ寄っておくんだ。

わざわざ傍流へ行くのか?
……しんどい思いまでして、どうして?














……ものすごく大変だった、死ぬかと思った。

だが、無事に傍流へ入れたな。

ほとんどの奴等は、そのまま流れに身を任せて、
南の本流へいっちまったぞ。

さあ、前を見ろ。
またずっと先に、
水路の分岐があるだろう。

げ、またかよ。
しかも、さっきと全く同じじゃねーか。

北が傍流で南が本流。
流れは南に向かっているから、必死に泳がなきゃ北側には行けない。

よし、泳ぐぞ。

!?
かんべんしてくれよ。
さっきので疲れてるんだよ。
もう、流れに身を任せて、本流の方へ行こうぜ。

……わかった、
そうまでいうのなら、
今回だけは、
本流へ流れよう。

よっしゃ。
こりゃ、楽でいいぜ。
流れに身を任せているだけでいいんだからな。
見ろよ、ほとんどの奴等が、オレらと同じように、
流れのまま本流へと入っていくじゃないか。
あっちの傍流へ泳いでいってる奴等の必死なツラ、見てみろよ。
笑えるぜ。はははは。

今回だけだぞ。

休むのは、
もう、今回だけだ。














合流したな。
ほら、
今周りにいる奴等って、
最初に本流へ流れた大多数の奴等だろ?
また合流できたじゃねーか。

合流してしまったんだよ。
オレたちは、一回頑張ったぶんを無駄にしたんだ。
いや、正確に言えば、ここにいる奴等は、一度目は本流に流れたが、二度目で傍流に入った奴等だ。

この時点で既に三種類の流れが存在している。

一度も傍流へ向かわなかった奴等がいる流れ。
一度だけ傍流へ向かった奴等がいる流れ。オレらがいるのはここだ。
そして、二度傍流へ向かった奴等のいる流れ。

敷き詰め並べられた平面充填の六角形、亀の甲羅をイメージしてみろ。

ちょうどあんな具合に水路の分岐は綿々と続いている。

おいおい、
そんなことより見ろよ、
またきやがった、
また水路の分岐がきやがったぞ!

しかも毎度同じ、
北が傍流、南が本流。

北の傍流へ行くぞ。

まじかよ、見てみろって!
流れは圧倒的に南へ向かってるんだぞ?

これを北に行くとしたら、最初の倍は泳がなきゃたどり着けない。あんなに大変だったことの、倍の労力だぞ。


オレは、やだ。

なら、おまえとは
ここでお別れだな。

オレは、北の傍流へ行く。
おまえはこのまま流れに身を任せて、南の本流へ行くがいいさ。



































プルルルルルルル……


はい、もしもし?

伴外か。
久しぶりだな。

おまえ、
あれからどうしてた?
水路の分岐。

何度か、本流に流れたが、
基本的にほとんど傍流を選んで泳いできたよ。

……そうか。

じゃあ、おまえはもうずっとずっと北の方にいるんだな。
こっちは、今、南の果てを流れている。

オレは、あれから一度も傍流へは行っていない。

これまで、数え切れないほどの水路の分岐があった。

だが、オレは一度も傍流を選ばなかった。流されるままに、本流を選んできた。


というか、
そっちは予想通り静かだな。
なんの音も聞こえない。   


きっと、ゆっくりと
川が流れているんだろうな。

……傍流に入れ。

いや、もう無理なんだ。


本流へ誘う流れがあまりに強すぎて、とてもじゃないが、傍流へ渡れるような速さじゃないんだ。


そして、聞いてくれ。


あれだけたくさんいた、本流を選んで流されるままに流されていた人たち。彼らも少し、また少しと傍流を選んで行き、今、この流れに乗っているのは、もうごく僅かの少数でしかない。

……

なぁ、伴外。



なぜそもそも、この川は、
傍流へ向かわないといけないんだ……

なんで、今オレはあんなものを目の前に見てなきゃならないんだ……




何が見えているんだ。
おまえの目の前に。





聞こえているだろう?
電話越しに……




聞こえているだろう、
この……


















流れ落ちる、滝の音が。






……こうなったのは、
自業自得だ。



ただ流されるままに
生きてきた、報い
だ。

伴外、おまえ、
南の果てに滝があることを、
わかっていたんだろう?



だから、おまえは懸命に傍流へと向かっていた。

そうだ。
おまえは
間違っていたんだよ。


楽な道ばかりを選んで生きてきた者を最後の最後で待っているのは、だ。




そうだな。






だが、
これでよかったのかも
しれない。




……なんだと?




おまえの言うとおり、
オレは楽な方へ楽な方へと流れてきた。辛いことからは全力で逃げてきた。
そして今、南の果てで死を迎えようとしている。



しかし、これで
よかったのかもな。

何を言ってる?



おまえは今、
見ているんだろう?



その流され続けた先にある、
目の前の滝
を。




……それ以外に、
もうひとつ見えているものがある。



今、オレの周りに
何が流れているか、



おまえ、わかるか?

おまえと同じように、
流され続けてきた連中だろう?




いいや。



さっきも言ったように、
彼らはほんの少数さ。



この広大な川を埋め尽くすほど流れているものは、おまえと同じように傍流へと泳いでいき、必死に藻掻き、苦しみ、挙げ句の果てに溺れ、傍流から流れて帰ってきた、



























水死体の山だ。



























GRAND HIYOKOSU






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