幸せなはずなのに、幸せじゃない~7リットルの男~

















差名山伴外の友人、
掛画絵絵描(かけがええかき)は云う。
















『幸せなはずなのに、
 幸せじゃない。』











と。









































なぁ、どうしたら幸せになれる?

……藪から棒に、
直球な質問だな。

オレ、自分がな、
ものすごく冷めている人間じゃないか、って思う。

おまえの知り合いの話も色々と聞くけど、そいつらとオレの冷め方って、根本的に違う気がする。

そいつらは、言ってみれば、熱を手に入れられなかった結果、熱を持っていないんだ。
ほら、静寂幽鬼のようにさ。

けど、
オレはそうじゃない。

熱というものが、
そもそも何なのか
よく解らないみたいなんだ。

色んなものを手に入れて、
幸せいっぱいなはずの、
おまえがか?

そう。
まさに、そこなんだよね。

満たされるべき要素は、全て満たしているはずなのに、なぜか満たされない。

幸せなはずなのに、
幸せじゃない。


家もそれなりに裕福だったし、親も優しかった。勉強も運動も、人並みにはできた。良い友人もいたし、そこそこの人望もあった。恋人も、昔からいた。みんな可愛くて性格も良い子ばかりだった。

過去に何か、
格別辛いことが
あったわけでもない。
過去に何か、
特別嫌なことが
あったわけでもない。

苦しいことならたぶん、
人並みかそれ以下、
楽しいことならたぶん、
人並みかそれ以上……

そんな人生だった。

なのに、
どうしてだろう?

他の奴が欲しがっている、これがあれば幸せだ、というものなら、事実、オレはほぼ全て手にしてきた。

金も恋人も友人も趣味も仕事も、オレは一般的な価値観からすれば、それなりのランクに位置するものを全て獲得してきたし、それらを今も持ち続けている。

よく、こんな話を人にすると、おまえは幸せなくせに、それに気付いてないだけ、一度失ってみれば、今普通だと思っていることが、どれだけ幸せなのかが分かるはず、なんて言われる。

……そう、言われてもさ。

現実的に、今の自分が幸せだとは思えない。

もし仮にこの状態が幸せなのだとしたら、それは恐ろしいことだ。

こんなにも、何もかもに満たされていない状態が幸せだと言うのなら、オレは幸せなんて、一生かけても味わえない気がする。

異端を気取るなよ、
掛画絵。

『幸せなはずなのに、
幸せじゃない』。


今の世の中、この台詞を吐く奴の方が確実に多数派さ。おまえの悩みは、何も特別ではなく、見事にありふれている。

さて、それを踏まえた上で、話を進めようか。

……相変わらず、
おまえの性格の悪さは、
酷いな。

まず、何故おまえが持っている幸せたちは、おまえに幸せを与えてくれないのか?

これからいってみよう。

適当に
挙げてみてくれるか? 

おまえの、
幸せなはずなのに、
幸せじゃない例。

……そうだな、
いちばんに思うのは、
恋人のことかな。
付き合い始めた当初は楽しいんだよ。

相手の幸せを考えて、
それを実行することが、
自分の幸せになっていく。

相手も同じように感じ、
同じようにしてくれる。
この上なく、最高なんだよ。

だけど……

だけどな、
だんだんと、
それが普通になってくる。

当たり前になってくるんだ。そうすると、そこにありがたみを感じなくなる。

慣れて、
飽きちゃうんだよ。

残酷な言い方をすると、ね。


基本的には、
他のもこれと同じ。
仕事も、最初はやる気いっぱいでこなしていくけど、慣れるとルーチンになってしまう。趣味も、最初は夢中になってのめり込むけど、慣れると興味が削がれてしまう。

おまえが持っているのは、
幸せではなく、幸せの要素、だな。

このあいだ、
静寂幽鬼と3人で
幸せの飴を食べただろう?

ああ、実は欲望の飴だった、
ってアレか?

そう。

幸せの要素、ってのは
つまり欲望のことなんだよ。

人は、
欲望を満たすだけでは、
幸せにはなれない。


幸福のパラドックス
って知ってるか?

確か、手に入れたものが、
デフォルトになる現象だろ?

そうだ。

主に、物質的価値に対して使われる用語だが、なぜこれが物質的な豊かさに対して使われるのかというと、物質的な豊かさってやつは、自分らしい個性が生まれにくいからだ。
同様に、俗にいう幸せだと言われているもの、にも自分らしさは生まれにくい。



自分らしい幸せを手に入れることで、人は幸せになれる。



自分が幸せだと言えるもの、と、俗に幸せだと言われているもの、は実際全く違っていて、後者の俗にいう幸せだと言われているもの、を得た場合に、この幸福のパラドックスは起こる。


???

ちょっと待てよ。

オレの幸せが
俗にいう幸せだと言われているもの、だって?

そんなはずないだろが!

オレはちゃんと、オレが望む、オレらしい幸せを手に入れてきたぞ? 趣味はもちろん、仕事選びも一切妥協はしていない。

恋人に至っては、
片想いの末、
オレから告白して付き合うことになった女性だぞ? 
これのどこが、俗にいう幸せだと言われているもの、なんだよ?

過去そうであったもの、
ってだけで、
現在も継続してそうであるもの、ではないだろ。


……!


それが、
全てを物語っている。

途中で消えてしまうような
自分らしさ。
途中で消えてしまうような
自分の生き甲斐。

そんなものは、
幸せの飴というラベル
付けられただけの、
欲望の飴に過ぎない。


だからこそおまえの幸せは、幸せの要素、に成り下がってしまっているんだ。

幸せの要素、であれば当然、幸福のパラドックスを受けて、デフォルト化してしまう。

その結果、
おまえは幸せを感じられなくなっている

わけだ。

これが、おまえの幸せが、
幸せをもたらさない理由
だ。

なんでだよ……
なんで、
そうなっちまうんだよ、

わけわかんねぇ。







おまえに、
幸せのセンス
ないからだよ。




この幸せのセンス、
というものは、
つまり、幸福を感じとる力、
のことだ。

同じ経験をしても、
人によって幸せを感じる度合いは異なる
だろ?

じゃあ、なんだ?
オレは幸せを感じられない人間だ、ってのか?

そういうことだ。

人の幸福度は
次のような割合で
決定されていると言われる。

両親からの遺伝、
人格形成期においての影響、
これが50%。

自分らしい生き方を
しているかどうか、
これが40%。

今置かれている環境が
もたらす幸せ、
これが10%。

この%の合計が、
その人物の幸せを表す数値となる。

この考えでいくと、おまえが持っている幸せの全ては、最後の10%の部分だ。



環境、になってしまった、
結果、になってしまった、
要素、になってしまった、




虚しい幸せの残骸さ。

……この中で自分の力でどうにかできるのって、 40%の部分だけじゃねぇか。

そう、重要なのは、
この40%、




そして最初の50%。

ここで、
どれだけ幸せを
感じられる
人間になれるか、

が決まる。

幸せを手に入れるための
努力や能力とは
全く別のものが、
ここで決まってしまう。

いうなれば、
幸せを受け入れるための器が決まるんだよ。

ここで幸せの定義を心に刻むことのできない者は、何を手に入れても、心の底から満たされることはない。

そういうタイプの人間は、
【幸せになれる自分】
を完成させていないのさ。

おまえのような奴は、
何をどうしても、
心から幸せになることは
できない。

なぜなら、
から幸せになる、という、
そのこそが、
決定的に欠けている
から
だ。

おまえには
幸せをつかむ力はあっても、
幸せを味わう力はなかったんだよ、掛画絵。




例えるなら、そう、
ここに10リットルの容器があったとしよう。



これが全て満たされた状態が、本当の幸せだ。


だが、
おまえという人間の容器は、
7リットルしかない
のさ。


そこに、10リットル分の水が入ってきたとしても、7リットル以上にならないよな?

だから、幸せの要素である10リットル分の水は確かに注ぎ込まれているはずなのに、実質、自分の容量は7リットル分しかないわけだから、3リットルは溢れて零れてしまって、結局そこに入るのは、7リットルでしかなく、結果として、おまえが疑問に感じている、

10リットル手に入れて
満たされているはずなのに
7リットルしか入ってなくて
満たされない

という現象が、起こるのだ。



そして、
自分の容器が7リットルということを、 自分自身で分かっていないからこそ、
満たされているはずなのに、
なぜか満たされない、
幸せなはずなのに、
幸せじゃない、

という言葉が出てくるのだ。




おまえは
冷めてるんじゃない。

おまえはただ、
心の容量が足りないだけの
人間なんだよ。



ふざけんな。
じゃあ、もう、
お手上げじゃねぇか。

……まあ
そう捨てたモンじゃない。

なぜなら、先ほどおまえが言ったとおり、40%の自分らしい生き方の部分は、努力と信念によって、どうにかなるからだ。

自分らしい楽しみ、喜び、
自分らしい幸せ、
そして生き方を決めて……

そう、

もう時すでに遅しで

見つけられないのだから、
感じられないのだから、



決めつけるしかない。

そして、それを信念をもって貫き通し、努力によって支え続ける。


……


まぁ、
そう悲観するもんでもない。

実際は幸せのセンスが90%全て満たされている奴、つまり幸せのセンス抜群な奴なんて、まずいない。誰もが多かれ少なかれ、上記のような幸せを維持するための、信念、努力。

……それを実行し続けている。









……












おまえは、
7リットルの男









その事実を受け入れ、
7リットルに
相応しい幸せ
を、






味わい生きろ。








KAKEGAE EKAKI





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