しみったれストライカー





































































































































































































よう。
会いにきてやったぜ、
しみったれストライカー。

僕をその名前で呼ぶな。

オレは呼んじゃいないね。
読んだだけさ。
ゴシップ誌に
堂々と書かれていた、
おまえの愛称をね。

やはりおまえは、
そういう人間だったのだな、
差名山伴外。

オレのことはいい。
それよりおまえ、

このままじゃ死刑になるぞ。

何度も死のうとした。

何度も死のうとしたが、
死ねなかったんだ。

そんな僕が、いま、
殺されようとしている。

怖いか?
怖いよな。
そりゃ、怖いよな。
ものすごく怖いよな。

さっきからおまえ、
眼の焦点がてんで合っちゃいないもの。

僕は死にたくない。
死にたくなんかない。

聞いてくれ、
聞いてくれよ、
僕は被害者なんだよ。

6人も殺しておいて、
なにがどう被害者なわけ。

僕が、
殺され続けた人間だからさ。

おまえが、
殺され続けた人間?


……あの日は、
朝から雨が降っていた。

僕は寝不足の重たい体を
引きずるようにして
仕事場へと出掛けた。

寝不足?

不眠症だよ。

延々と苦しみに苛まれて、
床についても眠れやしないのさ。

それが
2週間以上続いていて、
僕の精神は常識から
少しはみ出していた。

つまりは、
異常だったと

異常は僕にとって
日常だったよ。

あの日も、
第2地区に
差し掛かった辺りから
叫びだした。

第2地区から
第3地区の仕事は、
およそ1時間で片づけなくちゃいけなくなっていて……

それはあまりにも
無理なタイムだったけど、
僕は狂いながらも、
それを毎日こなしていた。

いや、臨んでいたというべきかな。

こなしそこねた日は
実際幾日もあって、
僕の存在はその度、
否定され続けた。

それが怖かったのか?

怖かったね。

おまえにとっては
しょうもないことでも、

僕にとっちゃ
世界そのものなんだから。

今でも怖いか?

今となっちゃ
どうでもいいな。

今となっちゃ、ね。

今にならなければ、
ずっと怖かったと思うよ。


……なんていうのかな、
これは結果なんだ。

結果?

うん。
あの事故は事件じゃない。

結果なんだよ。

あそこから始まるのは
僕が殺した人たちの悲劇。

だけれども、
僕自身の悲劇は
あそこで終わったんだ。


あの、
世間を騒がした、

『ストライク』でね。

……話を続けろよ。

雨が降っていて、
おまえはその第2,3地区を
走っていたんだよな?


世界が滲んでいた。

僕の体の中では
1秒置きに、
苦痛が暴れ回っていた。

僕はその苦しみに、
永遠を重ねていた。

がらんどうの瞳には、
絵の具で描いたような景色しか入ってこなかった。




その時……


ふと、
景色の中に、
あるものが映ったんだ。


だけど僕は、
それそれ
認識できずにいた。








『ただ、苦しい。
そして、逃れられない。』





それ以外のものが、
存在しない。







そこに映っているものが、
ガードレールや
民家の石壁とは
異なっているものだ、






ということだけが
判っていた。




だからこそ。




そう、だからこそ。





おまえは園児の列に、
仕事用のトラックを
突っ込ませた。

そうだよ! 

だって、
どうしようもなく
苦しかったんだよ!

おまえは
死ぬほど苦しくなった時に、
自分を殺さず、
他人を殺してしまう
人間なんだな。

解ったような口をきくな!

おまえに、
僕の苦しみが解るか?

おまえに、
僕の何が解るっていうんだ!

使い古された台詞で
お茶を濁すのはよせよ、
しみったれストライカー。

オレがおまえに関して
解っていることは、
今言った通りの人間だって
ことだけだ。

それに関しては、
反論の余地がないだろう。
事実が証明してるんだからな。

心配しなくても、
おまえの苦しみなんて
解りゃしないさ。

それこそ、
オレがおまえになって、
おまえの人生を
そのまま生きてみなきゃ、
そんなのは絶対に
解りっこないんだ。

だけどな、
自分が死ぬほど苦しい時に、
それを無関係の人間に
八つ当たりしてしまうっていうのは、どうしようもなく愚かだぜ、

しみったれストライカー。

おまえ!

そんな正常な判断が
できるような精神状態で、

そんな倫理や道徳が
考えられるような精神状態で、

僕があんな事を
しでかしたとでも……

そんな自分に
なってしまうまで、
自分を放っておいたのは、

誰だ?

……なんだと?

理性が壊れておかしくなるまで追いつめられたら、人間は何をするかわからない。

これは、
誰でも同じだ。

そこまできてしまったら、
当人では、
どうすることもできない。

事件を起こした日の、
おまえのようにな。

だが、
追いつめられる
過程での話なら、
狂ってしまう
前での段階なら、

自分自身に対して、
おまえは何かが
できたんじゃないのか?

ふざけるな!

オレは生きるため
毎日必死だった!

ただ、
それだけのために
存在を削って、
地獄を見てきた!

その過程で何をどうする!?

現実に背を向けて、
逃げ出せば良かったのか?

誰かに泣きついて、
甘えて縋れば良かったのか?


そんなことで、
何が解決する!?

自分を甘やかすことと、
自分を大切にすることは、
よく同一視されがちだが、

全く違うぞ。

……!?

自分に無理をさせることと、
自分に厳しくすることも、
よく同一視されがちだが、

全く違う。

……なんだよそれ、
何が違うってんだよ!

甘えるのは、
ただ単に、
楽をしたいからだろう?

だが、楽がしたくて
自分を大切にする奴はいない。

自分に無理をさせるのは、
自分に甘えていることと
同意だ。

だが、
自分に厳しくするのは、
自分に甘えることと
反意になる。

……

おまえは、
自分に甘えてきた。

そして、自分に
無理ばかりさせてきた。

壊れていく自分の悲鳴に
耳を貸さなかった。

あらゆる代償を、
自分自身に押しつけ続けてきた。

……

なぁ、
しみったれストライカー。

人は、壊れ続けていけば、
どこかで立ち直れると思うか?

人は、奈落に落ち続けていけば、どこかで這い上がれると思うか?





断言してもいい。







そんなことは
絶対にあり得ない。





壊れ続けた
先にあるのは、
完全なる崩壊

奈落に落ち続けた
先にあるのは、
完全なる地獄





そうだよ、
トラックで
6人の園児を轢き殺した今、




ここ
が、





その崩壊と地獄
そのものだ。






紛れもなく、
おまえはいま、そこにいる。









……だって、
















苦しかった、
















速く、速く、












急げ、急げ、
















スピード、スピード、
って言われ続けて、
















そうしないと、
それができないと、




おまえは存在価値がない、
って言われ続けて、




















苦しかった、








ずっと苦しかった……




























だから































助けてほしかった。



































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